2023年度 第1-2回新家庭医療勉強会の開催報告
今年度も、新家庭医療専攻医向けの勉強会が開催されました。今年度の第1回として、「EBMの実践」について、5月25日に大分大学医学部附属病院 堀之内 登先生からご講義を賜りました。
昨年度も堀之内先生から、PICOによる問題提起から始まるEBMの5つのSTEPをレクチャーしていただきましたが、今回はその中のSTEP3「情報の批判的吟味」に焦点を当て、より実践的なEBMについて学ぶことができました。
批判的吟味とは、参考にした研究論文の手法が正しかったかどうか(=内的妥当性)の評価を指します。一方、その研究結果が目の前の症例、あるいは一般的な臨床の場にあてはめられるかどうか(=外的妥当性)の評価はSTEP4にあたります。
内的妥当性を検討するためには当該論文の隅から隅まで熟読しなければならないように考えてしまいがちですが、いくつかの有名な簡略化されたチェックシートが研究様式ごとにあることと、その実例をいくつかご紹介いただきました。
EBMの5つのSTEPを実用するにあたり、初学者が最も難しく感じる批判的吟味のノウハウを教わり、専攻医にとっては非常に有意義なレクチャーだったと思います。堀之内先生、貴重なご講義を賜りまして、ありがとうございました。
続けて7月27日に第2回が開催され、国立病院機構東京医療センター 林 智史先生から「ユマニチュード」についてご講義を賜りました。
ユマニチュードとは、言語と非言語を組み合わせたマルチモーダルコミュニケーションによるケア技法で、特に認知症ケアにおいて有用と考えられています。フランス語で「人間らしさを取り戻す」というフランス語の造語が由来してます。
これも5つのSTEPで構成されており、「出会いの準備」「ケアの準備」「知覚の連結」「感情の固定」「再開の約束」の順に進みます。これまで漠然と行っていた認知症の方との対話に、理論と技術があるということは大きな驚きでした。その中で重要視されるコミュニケーションに「見る」「話す」「触れる」「立つ」があり、それぞれの具体的な実践方法をレクチャーしていただきました。特に「立つ」においては他3つに比べて臨床の現場で実践されている割合が少ないように感じられますが、人間の尊厳が立つことで保たれるということ、可能な限りの自立性を持たせ、不必要なサポートをしない方がよいことなどを学び、これからの医療にぜひ活用していきたいと考えさせられました。
新家庭医療専攻医のみなさんは少なからず意識的に取り組んでいる分野でもあり、質問や議論も活発に行われました。末文ではありますが、林 智史先生、貴重なご講義をいただきまして誠にありがとうございました。
文責 筒井 勇貴